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最高裁判所第一小法廷 昭和22年(れ)305号 判決 1948年3月04日

主文

本件各上告を棄却する。

理由

被告人両名辯護人佐野正綱の上告趣意は「原判決は刑法第二十五條ヲ適用スヘキニ拘ラス之ヲ適用セサルハ刑事訴訟法第四〇九條後段ノ法令違反アルモノト思量ス即チ両被告人ハ何レモ前ニ禁錮以上ノ刑ニ處セラレタルコトナキハ原記録ニ徴シ明白ナリ唯両被告人ノ行爲ハ米又ハ衣類ノ窃盗ニシテ其動機並ニ使途ハ時局下同情ノ餘地無キカ如キモ終戰後道義心ノ頽廢ノ一端ニシテ同人等ノ年齢ヨリシテ陥リ易キ状況ニアリタルコト其責任ノ全部ヲ糺斷スルハ酷ニシテ幸ニ両被告人ハ檢擧以來心氣一転シ衷心ヨリ改悛シ將來ニ再犯ノ危險ナク被害者並ニ郷黨モ其罪ヲ憎ムモ却ツテ両人ヲ憎マス第一審裁判以來其處刑ノ輕カランコトニ奔走シ一方両人ノ親モ被害者ヘノ辯償ノ外不當利得(闇價格)ノ全部ヲ提供シ長野小学校ニ約七千圓相當ノ机、椅子類ヲ寄附セル慈悲心ハ記録第一二四丁以下第二〇八丁ニ徴シ明白ナリ以上ノ事実ハ原判決ニ當リ刑法第二十五條ノ情状トシテ酌量スヘキニシテ控訴判決ニ於テ之ヲ顧慮セサルハ刑事訴訟法第四〇九條後段ニ該當スルモノト思量スルニヨリ上告ニ及フモノナリ」というにある。

しかし、刑の執行猶豫を言渡すか、どうかは、法律上犯罪について刑の言渡をする裁判所の自由裁量にのみ委ねられている。從って、論旨の縷述するような事情が假りにあったとしても、そしてまた新制中学えの寄附並びに被害辯償の実情は、記録上においても明かではあるが、なおそれにも拘わらず、原審が上告人等に對して、刑の執行猶豫の言渡をしなかったことは、本件犯罪の全貌を通觀しその犯情を考察して、実刑を科するのを相當と思料した結果と見るべきである。論旨は畢竟事実審である原審の專權に屬する裁量の當否を非難するに過ぎないものであるから、上告適法の理由とはならない。

よって、刑事訴訟法第四百四十六條に則リ主文の通り判決する。

この判決は、裁判官全員の一致した意見である。

(裁判長裁判官 岩松三郎 裁判官 真野毅 裁判官 齋藤悠輔)

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